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■6月の問い
街的ってなんですか?
いい店ってなんですか?

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ミーツ2003年8月号 95ページ 「街遊びの入り口」より引用しています。

私のおいしいワインを選ぶ
ためではないワインリスト。
それではなぜ存在しているのか。


味覚っていうのは、僕はひとつの「コミュニケーションの手法」だと思っている。同じように「おいしい」っていうのはそういうふうにいえば、それを作った人との「コミュニケーションの成り立ち」の事であろうと思う。そしてワインを「やたらおいしく飲む事が出来る人」というのは、「コミュニケーションが上手な人」でもある。いきなり結論めいてしまったけれど。

ワインを置いている店にはだいたい普通、ワインリストがありますね。

それではワインリストとは何か?

今から10年くらい前に働かせて頂いていた、ジャン・ムーランという神戸のフランス料理の店のリストは僕が作っていて(まあ、ソムリエなんだから当然ですが)僕はその店が大変好きでした(元々お客さんだったし)。

だからその店のワインリストを作るに当たって、シェフに中央市場の浅野仕入れにも連れて行ってください、とお願いしたりして、要するに、シェフがいったいこの店で、何をしようとしているのかを、僕は知りたかった。

大げさではなく、その店にとっての「世界の成り立ちのようなもの」。それがわかれば、おのずとワインリストは出来る。その店は凄く良い、ある意味では抽象的な料理を出す店だったので、そういう店に来て頂くお客さんには、同様に抽象的な、僕がワインを選ぶ時のフレーミングみたいな、まあ、ラインアップもそうべきだと思ったし、具体的にいうと、ワインリストの内容に、料理を考え合わせた上での、はっきりした「トーン」のようなものを付けた訳です。

というか、そんな「世界の成り立ちの学習」の結果、リストの領域みたいなものが自然についてしまったのだ。(ちなみに、当時のミシェル・ブラとか、ジャマンとか、ルイ・カーンズとかの、それぞれ固有の「世界の成り立ち」の衝撃は、僕にとって説得力のある魅力で満ちていた)

ブルゴーニュの特級ではなく、1級を充実させたいとか、アルザス地区、廬わー留築、シャンパーニュ地区はかなり本気で細かいところまでやるとか、例えばそういうような事を煮詰めていくのだが、それは僕なりのお客さんと店をめぐるうえでの、ディセンシー(作法のようなもの)だった訳です。ワインリストっていうのは、たぶんある種のメッセージである。

それは、ソムリエが一生懸命作れば作るほど、お客さんにはどんどんわからなくなるって類のメッセージである。

でも僕は、ソムリエが一生懸命作ったのなら、何だかよく分からなくても、それで良いのではないかと思っている。

良いワインリストから読みとれるのは、「僕の好きなルロワのモンラッシェ」のあるなしとか、シャトー何々が幾らっていう事とかではなくって、ワインを出す、受け取るをはじめとしたコミュニケーションにおける「畏敬」や「礼節」のようなものである。僕たちソムリエはほぼそれだけを伝えたい、おそらく。

僕はいろんなお店に行って、ワインは片っ端から飲むけど、つまるところ、「ワインをおいしく飲む」というのは、これは思うに、ワインリストに何が載っていて、「今日、わたしは何を選べば正解(おいしいに当たる)」ということではなく、ワインをめぐって店とのコミュニケーションを立ち上げるという事に対する広義のディセンシーみたいなものが、やっぱり手掛かりなんじゃなかろうか。

ワインリストには、そういう意味で言えば、いろんなワインが載っているけど、実は機能だけで「何も載っていない」のかもしれない。



【プロフィール】
橘 真
神戸・三宮のバー「Re-SET」のマスター。94年に開いたワインバー「ジャック・メイヨール」の時代から哲学好きで知られ、「モードなワイン」など、やわらかい語り口から飛び出す「わかったようなわからん言葉づかい」が特徴。
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