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現在もシーズンごとに売り出される新色の口紅。アイメイクやチークに凝らない人でも、
口紅一本は持っている。今の化粧の中でも、中心的な位置にある紅だが、昔の京紅も、その高価さに関わらず人気が高かったようだ。
「紅の深染めの衣色深く染みにしかばか忘れかねつる」―。簡単に言うと、紅で色濃く染めた衣のように、色濃く心にしみたのか、あの人のことを忘れられない、といった意味だ。万葉集の歌である。京の歴史を形作った平安の貴族は、「紅」で自分の思いの深さを表現したり、肌の白さならぬ赤さに健康的な美を詠って来た。頬が桜色の女性は可愛らしくいつの時代でも好かれたのである。
血色の良さを表現できるとあり、紅は古くから女性にとって欠かせない化粧品だった。昔の美人画には、唇が緑色に塗られているものもあるが、これは「笹紅」と呼ばれる当時の流行だ。高価な本物の京紅を塗り重ねていくと、唇は紅を通り越して暗緑赤色に光る。それが流行の美として定着したのだから、見栄の力は侮れない。
紅を作ることは、とても手間がかかることだった。鋭い棘が生えた紅花を地道に摘み取り、黄色が混ざった花弁からわずかな紅色色素だけを根気よく取り出す。その結果生まれる紅は「金一匁が紅一匁」と言われるほど高価だった。それゆえ他の土地では需要が少なく、上質の紅は京都に集まってきたのである。「京紅」が質の高い高級ブランドになったのも当然の成り行きだったと言える。
天然紅の原料となる紅花は漢方薬にも使われるほど身体によく、紅は貧血や月経不順を予防する婦人病の万能薬として、また唇の荒れを直す薬用リップとしても重宝された。価値ある美しいものに魅かれる花街と京女。
高価な京紅は彼女たちの心をくすぐるステイタスだったのである。
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