|
|
「京に良きもの三つ。女子、加茂川の水、寺社」。滝沢馬琴がまず挙げた「京女」の魅力だ。艶のあるひとさしの紅に、しなやかに整えられた黒髪。これらは彼女たちのきめ細かく色白な肌があったからこそ映え、またシックに引き立った。京コスメは数あれど、きれいになりたいという思いが行き着いたのは、自分自身の美肌へのこだわりだったのだろう。
とはいえ日常的な肌のケアは、もともと商品に頼っていたものではなかった。ヒマさえあれば風呂ばっかり、というわけでもないだろうが、京都には「京女の長風呂」という言葉がある。 愛情をかけて素肌を洗うことは、美肌作りの第一条件であったのだ。木の風呂桶の中に収まるのは、清潔に使い 込まれた手ぬぐいとぬか袋。お風呂上りには台所の日本酒をちょっと拝借して、保湿のための美容液として使っていた。生活の中にあるものをうまく応用して肌を美しくする知恵は、母から娘へ、そしてその娘へと伝えられることで、京女の肌に潤いを与え続けていたようだ。
舞妓、芸妓のような年若い女性だけでなく、京女の品性を漂わせる女性は七十、八十と年を重ねても、潤いのある素肌を持っている。年齢に関係なくどの家庭にもあるものを利用する。その習慣が京女のみずみずしく透明な美肌を守ったのだろう。
「当り柔らかな台所の音」―父・露伴に、水仕事をする時は京の女性を見習うよう注意された幸田文は、ある日京の小路で、その音と出会う。この音から感じられる京都の女性の好ましさ。きびきびと心の込もった家事に励む京女たちがいた台所には、彼女たちの美しさを守るアイテムも隠されていたのだ。
|
|