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最初にこの店を訪れた時、カウンター席の一番奥にいる中年の男性の姿がまず目についた。男性のすぐ横には、天井まで高さがあろうかという真空管アンプがそびえたっている。カウンターの中には、女性が一人コーヒーをたてていた。特等席に座る彼は、多分常連客なんだろうと思っていた。 しばらくすると、客がどっと押し寄せてきた。カウンターの女性だけでは、とても捌ききれない。すると、常連客と思っていた男は、おもむろに立ち上がって、「何にしましょう?」と慣れた手つきでコーヒーを入れ出した。客だと思っていた人は、[LUSH LIFE]の店長だったのだ。 彼はいつも、カウンターの奥の席に座っている。自慢の真空管アンプに一番近いところだ。そして、その目の前にはジャズ喫茶らしくないものが置いてある。「消淋」と書かれた淋病の特効薬の看板である。 なぜ、そんな看板を飾っているか訊ねたことがある。すると店長は、「FREE&EASY、それがジャズの真髄やねん」と笑って教えてくれた。 答えになっているようで、なっていない。ただ、「FREE&EASY」という2つの単語に、この店長がジャズ喫茶と共にどうやって生きてきたかが集約されているような気がする。 |
店長が、ジャズ喫茶を始めたのは、高校を卒業してすぐの19歳。最初は、哲学の道に、次は洛北に、という具合に場所を変えること数回。約40年間、ずっとジャズ喫茶をやり続けている。京阪出町柳の駅前のこの場所に移ったのは、15年前のことだ。
頻繁に店を移転した理由を聞くと、「同じ場所でやるのに飽きたから」と肩の力が抜けた答えが返ってきた。
現在の[LUSH LIFE]の客層は様々だ。大学教授がぶ厚い本にカラーペンを走らせているかと思えば、学生がコーヒーを飲みながら読書にひたっている。休日になると、比叡山に山登りに来たおじちゃん、おばちゃんがよくやって来るという。 そして店長は、ジャズにそれほど興味のない、色んな人が来る状況を、「今までやってきた店の中で、一番楽しい」と言う。 もちろん、ジャズ好きや音楽好きの客も訪れる。取材の日も、ピアニストだという女性客が来て、店長と談笑していた。仲の良い友人でもあるのだろう。偶然、店長の誕生日で、手作りケーキをわざわざ持参していたほどだ。特等席で、そのケーキに舌鼓を打ちながら、カウンターの奥さんに「なぁ、俺って何歳やったっけ?」と店長は呑気なこを聞いている。 そんな様子を見ながら、この店の本当の魅力はジャズではなく、「FREE&EASY」な店長の人柄なのかもしれないと思った。もちろん、最高級のアンプで、日本ではここにしかないという貴重なレコードも聞かせてくれる。しかし、それだけが魅力なら、常連さんは誕生日にケーキまで作ろうとは思わないはずだ。
店長が19歳でジャズ喫茶を始めてから、約40年。店を訪れる客の雰囲気は変った。けれど、淋病の薬の看板の前でジャズのリズムに体を揺らす、「FREE&EASY」な店長の立ち位置は、ずっと変っていないのだろう。
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 | ・コーヒー 400円 ・カフェオーレ 450円 ・手作りケーキ 350円 | |
 | ラッシュライフ 京都市左京区田中下柳町20 出町柳駅前 075-781-0199 12:30から24:00 火曜休 駐車場:なし カード:不可 | | |