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おのぞみドットコム真剣な会話>[亀屋良永] 下邑 隆さん(1)
真剣な会話
下邑隆さん


店の代表銘菓『御池煎餅』は、麩焼きのように仕上げた糯米粉の煎餅に、亀甲型の焦げ目を付け、表面に砂糖を薄くひいた食感の良い煎餅だ。ほんのりとした甘みと、隠し味に使った醤油が口の中で合わさって溶けてゆく。

『御池煎餅』は、明治末頃に作られていたものと思われるが、戦後の混乱期の後、再び先代が工夫を重ね、いち早く商品化して売り出したものだ。「いろんな時代をくぐってきたんやから」と話す当代の5代目も、先代の残した『御池煎餅』の味をかたくなに守り続ける。また、「一生一品」と言う言葉があるように、「自分が本当に満足できる菓子は、きっと一生に幾種類ものないだろう」という。「一生一品」と称されるような菓子は、どのようにして生まれるのだろうか?話を聞いて来ました。




Q、京都の菓子が、現在のような形で全国的にも知られるようになったのはいつ頃からなのでしょうか?

京都の菓子がヒットした契機のようなものはあります。戦争が終わって少し落ち着いた時に、京都へ観光客が多く訪れるようになったんです。今、京都駅ビルがあるところに観光デパートがあって、そこへ出品をしないかと誘いを受けたのが昭和30年代に入ってからのことです。「京都の菓子=みやげもの」として確立したのもこの頃のことでしょう。それまでお客さんから注文を受けてから菓子を作っていたのが、作ったものを売るというスタイルへと変わっていきました。

その後、昭和40年代に入ってからは、全国の百貨店で開かれる「京都展」へも何度か出品するようになりました。そうして京都へ来られない人へも間口を広げながら、商売は続きました。京都の菓子を全国へ送るようになったという点で、「産直」という言葉のハシリともなったと言えるでしょう。

とにかく、いろんな時代をくぐってきました。でも、忘れたらあかんのは、京都の街には、茶道や華道、呉服や京料理の文化が根強くあったからこそ、菓子もこれほどまでに発展したということです。菓子は、西陣や室町の呉服問屋へ小売り屋さんが来た時なんかに、みやげものとしてよく使ってもらったんです。今で言うと3000円、4000円の価格帯のものをよく使ってくれたのだから、結構な額です。「文化を発展させるためには道楽も必要や」、ということになるんでしょうか。




Q、『御池煎餅』が、この店の主力商品となった契機のようなものはあるのですか?

明確な契機はありませんが、やはり世の中の人の好みに合ったということが大きいのだと思います。うちは、菓子の中でもこの『御池煎餅』がたまたま多く売れたというだけです。

『御池煎餅』とレッテルは、現在の寺町御池の場所に店をうつした時、版画家の棟方志功先生に依頼して彫ってもらったもので、現在は丸缶のパッケージの文字として使用しており、多くのファンの方がおられます。



Q、今作っている『御池煎餅』は、明治時代の末ごろに生まれた菓子だと聞きましたが、代替わりによってその味は変わってきたのでしょうか?

代替わりで変わってきたというよりも、世の中の要求に応じて、その時々で少しずつ変化はしてきました。例えば淡白な菓子が好まれるようになってくると、煎餅の甘みを抑えたりといった風に。

菓子を作る時は、きっちりと分量をはかって作るわけではなくて、むしろ感覚で作ります。“相伝(そうでん)”という言葉がありますが、これは技や製法を何もかもそのままうつすことをいうのではなくて、精神的に伝わるものを指す言葉だと私は思います。だから、菓子作りで言うと、分量や作り方ではなくて、その菓子作りに対する「思い」のようなもの受け継ぐことを“相伝”というのだと思うのです。

私がおやじからこの店を継いだのは、おやじが亡くなる14、15年前の頃でした。菓子の品評会に出す菓子や、四季折々で店頭に並べる菓子の案を考えては、おやじのところへ持っていきました。だけども、何度も「あかん」といって突き返されたのです。

若いうちは、どうしても売れる菓子を作りたくなるものです。だけど、売れる菓子というものは、最初のうちは目新しくてお客さんに手に取ってもらえても、すぐに飽きられてしまうものです。目新しさばかりを追い求めても、それは「店の流れ」を汲んだ菓子ではないのです。だから「うちの店の流れ、うちの菓子のあり方とは何だろうか?」というところからスタートして、試行錯誤しながら菓子作りを進めました。

「やっと菓子屋の主になれたな」と、自分で思うことができたのは、ここ5年ぐらいのことです。店を継いだ当初、おやじに何度も突き返された意味が、最近になってようやく分かった気がします。そうやって、何度も突き返されたことで、おやじから「菓子屋の主としての考え方」みたいなものを自然に相伝された気がします。


 
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