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おのぞみドットコム真剣な会話>菊乃井主人 村田吉弘(3)
真剣な会話
村田吉弘さん

Q、菊乃井の考え方とは何ですか?

「美しくて浮花ならず、渋くして枯淡ならず。情あり才あり気あり。」
浮わつかず、地味すぎず、情と才能と気力で料理を作っていく、ということ。

Q、そのために、どんな工夫をしているのですか?

簡単に言うと、「わかる奴にまかせる」ということやね。玄関前の石畳も、檜皮葺きの屋根も、ふすまの張り替えも、壁の塗り替え、天井を洗うのも、日本で数人しかいない職人にまかせてある。いくら僕が菊乃井の代表と言っても、「お前は料理人や、大工の世界では素人や。だから口出しせんと俺にまかしといたらええ」とピシャリですわ。僕も彼らなら絶対ちゃんとした仕事してくれると思ってるから、全てまかせます。料理も同じ。完全分業制です。僕は誰が何をできるかを見極めるだけでいい。そいつにやらせといたら、あとはうまくいくんです。

料理は一種の空間芸術なんです。提供しているのは「食」ではなく「食事」。料理が全てと考えず、それにまつわる全てのものを引っくるめた「楽しい時間を売っている」と考えてます。つまり演劇やコンサートと同じ。各専門が自分の最高の演出をして、お客さんに楽しんでもらうんですわ。

80歳のおじいさんが、春にここへ来て、満開になった桜を見ながらフキノトウを食べてはった。このおじいさんは、一口食べただけで涙が止まらなかった。生きてる値打ち、生きる喜びを、食を通じて感じたんやろうね。言ってしまえばたかがフキノトウでしょう。でも、完璧に演出された中で、心を込めて出せば、涙を流させるくらい感動させられる。そういった、一生記憶に残るような「食事」を提供したいと思ってるんです。こんな大層な例を出さなくても、彼女と一緒に食べる料理は安くてもおいしいし、嫌いな奴と食べるとどんなええ料理も台無しでしょう。記憶の中に残るのは、味よりもむしろ情景だったりしますよね。受験に失敗して、帰り道に寄った喫茶店で泣きながら窓越しに見た雨とか、レストランで結婚を申し込んだ時、ゆらゆらゆれていたテーブルのロウソクとか。ひとつひとつに心を込めて、相手の心に届けたいという気持ちだけは絶対に忘れたらあかん、と思うんです。

Q、もう、論理とか合理とかじゃないですね。

人間の心はもともと不合理なもの。損得じゃはかれないし、計算もできない。だから恋愛に悩んだりするんよね。日本はだんだん経済第一になってきてるから、合理的な論理的な動き方をするようになってきている。合理的な社会は不合理な人間にストレスを与える。そうすると、社会が歪んでくる。不合理なものは、ますます魅力的になる。不合理なものは本能的な部分を刺激するからなんやね。

だから、緻密に計算された六本木ヒルズみたいな超高層ビル見たって感動しないでしょう。「あー、そうなんや。確かにすごいな。それで?」と。それよりも、100坪の土地に20坪しか建物がなくて残りは庭、みたいなお寺や神社に行って桜やモミジを見ると、ホッとする。100人入れる土地に100人入れる建物建てるよりも、100人入れるのに20人しか入れない建物の方が人を喜ばせることができるんよな。不合理は人にあれこれ考える余地、解釈する余地を与えることができるから、そちらの方が楽しめる。映画でも、合理的なストーリーよりも理不尽だったり不合理なストーリーの方が楽しかったりするやろ?計算された不合理がテーマなんです。
合理、というのもたまたまその時代や流れにそった常識の中で考えていることやから、なんかひとつ狂うとたちまちシステムが崩れてしまうわな。合理性を保つには、時代に合わせて変化せざるを得なくなる。でもある程度巨大化してくると、そんな簡単に変化したりもできなくなる。だから結局、時代の合理を追求すると崩壊は避けられなくなる」と思ってます。


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村田吉弘さん


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