真剣な会話
Q. 「ニーズをつくる」というのは、具体的にいうとどんなことなのでしょう。
ニーズに応えるということはお客さんの欲しいものを用意して売ること。対して、ニーズをつくるというのはこちらが売りたいものを用意して、お客さんが欲しがるという構図に持っていくです。象徴的なのは、3年前から樽ごとスコットランドから輸入して、津之喜酒舗でしか手に入らないスコッチウイスキーを売るということを始めた試みですね。先に言っておくと、今スコッチって本当に売れないんですよ。だけど今年、発売から2週間で237本完売しました。日本でこれだけのレスポンスはきっとそうないと思います。スコッチは売れないという時代のニーズに合わせていたら、成し得なかったことですよね。
また、ニーズに合わせていくばかりだと、どこの店も似たような品揃えになって、結果、価格で競争するしかなくなります。でも、自分が本当に旨いと思う酒をディスカウントして売りたくないし、自分が旨いと思わない酒は置きたくない。実は、うちにはワインが置いてないんです。以前はあったんですが、お客さんに「どれがおいしい?」と聞かれた時に「これが旨い」という確信を持って薦められるほどの知識がないので置くのをやめたんです。確かに置けば売れるかもしれないし、ワインを求めにくるお客さんもいるかもしれない。だけど、ワインは僕が売りたい酒じゃないから切り捨てたんです。それくらい極端なことをしてもいいと思っています。京の台所・錦に店を構えているのに他の酒屋と似たり寄ったりのものしか置いていないなんて嫌なんですよ。錦というのは日本一旨い和食がある京都の市場です。日本一旨い和食ということは、世界一旨い和食ということです。そこで200年やっている酒屋が他と同じではいけないという誇りのようなものがあるんです。自分が納得できる商品を自分が納得する売り方で売って、それが嫌なひとはうちを選ばないかもしれない。ただ、それでも自分が売る商品に思い入れと自信はありますよ、という話なんです。
錦で生まれ育ったこともあって、僕は錦という場所が大好きです。ここには一流が溢れている。でも、最近は少しずつ減っていっているような気がしますね。それは錦に限らず京都全体に言えることですけど。京都に住む人、特に僕を含めてですが、次世代を背負っていく若い人たちには、京都という街が日本の文化の中心だということをもっと意識してほしい。そして、伝統の街と言われる場所だからこそ、どんどん新しいことを発信していって、京都という街に対するニーズをつくっていってほしいと思います。

