接客って大事
食事に行くと、充実した食事が楽しめるのは
いい接客ができるところだなぁとつくづく思う。
わたしたちはレストランに料理だけを食べに行くわけじゃない。
そこに流れる空気も一緒に食べるのだ。
先日、ある居酒屋に食事に行ったときのこと。
カウンターの上に
金柑が入った大きな鉢が置いてあった。
それを見た横のお客が、大将に
「金柑って食べたことないわ」と言った。
大将は「おいしいで~。最後デザート代わりに食べきや~」
と刺身を切りながら愛想良く答えていた。
その会話の横で、私は連れと一緒に
のどぐろの焼いたのをつつきながら
最近みたテレビの話に興じていた。
いざ食事が終わって、会計をお願いすると
大将が「金柑だけ食べてってください」と言って
水で洗っただけの金柑をガラスの器に
4つ盛って差し出した。
「皮だけ食べてください。きっとびっくりしますよ」
と大将は笑う。
手づかみで、言われた通り皮だけをかじると、
口の中には果実のような瑞々しい甘味がはじけて
爽やかで少し苦みのある香りが強烈に鼻を抜けた。
金柑のはちみつ煮は何度か作ったことがあったが
生で、しかもこんなにおいしいものは初めて食べた。
「これは食べて帰らなあかんね」
連れとふたりでウンウン頷きながら夢中で金柑をかじりながら
ここはいい店だなぁとしみじみ感じた。
その日の料理はどれも本当においしかったが
大将のおいしいものを食べてもらいたいという気持ちの
現れのような、その金柑が何よりのごちそうになった。
そして次の日、同僚と6人で食事をする機会があった。
最近オープンしたなかなか雰囲気のいいお店で
接客も際立ってよいわけではないけれど、
まぁ気にならない程度のものだった。
店自体も平日にもかかわらず、大方席は埋まっていた。
気になったのはピザを頼んだとき。
小ぶりなピザで、4つにカットされてテーブルに運ばれてきた。
6人のテーブルに4つにカットされたピザ。
こういうところで、お店の良し悪しは顕著になる。
きっと件の居酒屋なら、気を利かせて
6つになるようにカットしただろう。
ほんの1回包丁を多く入れるだけだ。
どうしてそれだけの手間を
惜しむのかなぁという思いが拭えなかった。
店には2通りある。
ミーハーなお客で店が埋まる店と
熱烈なファンを持つ店。
どちらがいい店で、どちらが息の長い商売ができるかは
火を見るより明らかだ。
ミーハーなお客は浮気ものだ。
次にまた新しい同じような店ができたらそっちに行く。
一方、こちらの些細な言動で
何をしてほしいのか、何をしたら喜ぶかを察知して
さりげなくそれにあったサービスを提供してくれる店は
月に何度も通いたくなる。
そして、何度浮気をしても最後は必ず戻ってきてしまうのだ。
(Text by Ryoko Horike)
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