レーベルをやりたいなと思い始めた頃の話をしてください。
アメリカのシアトルに住むアメリカ人の友達の家に遊びに行ったことがあったんだけど、その人の友達にミュージシャンがいっぱいいたんだよね。その人たちの日常に接しているうちに、音楽が生活に自然に溶け込んでいるっていうことがわかって、僕もこの日本においてそういう風なライフスタイルで音楽をやっていきたいと思った。日本の大半のミュージシャンって、片意地張っているように僕は感じる。仕掛ける側はアーティストにカリスマ性を持たせようとするし、アーティストはプライベートと音楽活動とを別々にしている感じ。そういうのじゃなくて、毎日の料理を作るのと同じ感覚で、音楽を自然にやりたいと思った。
こっちに帰って来た時、音楽を自然にするにしても“自分なら何ができるだろう?”って考えた。そしてたどりついた答えが、僕がレーベルを立ち上げて、まだ世に出てない人たちの素晴らしい音楽を、世に出してあげたいってことやった。僕らのレーベルから大きくなっていってもらうこともすごいうれしいし、僕らと一緒にやっていってくれるのもすごいうれしい。その人が第一歩を踏み出す土台として、うちのレーベルが存在できたらなってすごく思う。
そういう人たちの一人に、イギリスのブリストルで活動するミュージシャンのThe Bootsっていう人がいて。彼は、たまたま僕らが聴いていいと思ったからうちのレーベルからリリースしたんだけど、僕らが発表しなかったら日本に一生入ってこなかった音楽かもしれないし。世界中にはいい音楽がすごくたくさん埋もれてる。僕らにはレーベルっていういいものがあるから、そこから埋もれてる音楽を発表していきたいよね。
The Bootsの話が出ましたが、ミュージシャンはスカウトしに行くんですか。
いや、The Bootsの場合は、たまたまインターネット上で見つけて。メールを送ったものの連絡がなくて。どうしようと思ってたら、レーベルを手伝ってくれているikedくんがちょうどブリストルに行く用事ができて。だからついでにThe Bootsを探してくる!ってことになり、3ヶ月滞在して日本に帰るギリギリに何とかコンタクト取れて会えたっていう感じ。「あなたの音楽を聞いて非常に感動しました!僕らのレーベルからリリースしませんか?」って伝えて、帰国後何度かメールでやり取りしてOKもらった。行くよ世界中(笑)。
シアトルの友達は自身のレーベルを持ってはったんですか。
直接の友達はミュージシャンじゃないけど、彼の友達はインディーレーベルを立ち上げ自主制作して販売してたよ。また、シアトルの近くにオリンピアっていう街があるんだけど、そこにすごく有名なインディーレーベルが2つあるのね。一つは、Kレーベル。インディーロックやインディーポップなものをリリースしているレーベル。ここには社会的な活動をしている人たちも多く、音楽活動と芸術家を両立してる人だとか、大学の講師をしている人、公共の活動をしている人、会社員をしている人とか。みんな“音楽をやるぜ”って変に気負いがない。結局“音楽は芸術の一つであり、自分を表現する手段の一つ”と考えているのだと思うけど、ものすごく楽しく音楽をしてる。もう一つはKill Rock Stars。これはそのまま、ロックなレーベル。
Kレーベルですか。そういうスタイルいいですね。日本に浜田真理子って言う人がいるんですけど、彼女は島根県でOLしながら音楽活動してますよ。たまにライブ活動をしはるんですが、ライブに来るファン層がすごく広い。みんな彼女のライフスタイルにも共感してやって来るんじゃないかな。
うん。音楽をやる側も聴く側ももっと自然に音楽やったらいい。「楽器弾けないから音楽無理です」とかじゃなくて、とりあえずやってみたら?って。楽器やなくても、箸で皿叩いたら打楽器になるわけやし。日本では、音楽って一部の人がやるものやって思われ過ぎやと思う。試しにやってみて、もしもっと自分を表現したいって気持ちが生まれたのなら、突き詰めてやってみたらいいわけで。
そうですね。日本って、音楽活動して認められるにはメジャー行くしかないって考え方が一般的な気がします。でも、メジャー行っちゃうと自分を表現したいって気持ちにも制限かかってしまいますよね。しんどいやろな。
どうしてもビジネスになってしまうから。でもメジャーでもうまいことやる方法っていうのはいっぱいあると思う。実際、うまいことやってる人はいっぱいいるだろうし。まあ、そういう人たちは自分の考えをしっかり持っているのかと。
その点、インディーレーベルはどうですか。
インディーレーベルのすごいところは、100%自分たちでコントロールできるところ。そのかわり、リスクも全部自分たちで負わなくてはいけない。だから、自分たちの考え方を見失わずマイペースにやることが重要。失敗しないようにじっくり時間をかけて取り組んで、しっかり責任をもって出す。自分のキャパシティーって決まってるし。それを超えてやろうと思うと、気づいてないところで周りに迷惑かけちゃう可能性もあるし。
でも、生活していくには、マイペースで活動していくとお金の面でしんどいところもあると思いますが。
誰もが思うことやと思うけど、欲を言えば、僕も自分がやりたいスタイルでお金が入ってくれば一番いい。でもそれは、僕が決めることじゃなくて社会が決めることやと思う。お金がほしければメジャーレーベルに行ってしっかりお金を稼げばいい。僕のインディーレーベルの考えとしてはその辺を求めているわけじゃない。僕の捉え方は、音楽も芸術であって、芸術を安売りしたくない。一人一人が芸術やっていう意識を持ってやってるかどうかはわからないけど、僕は、一人の人間が作り上げた音楽を尊重したいし、大切に扱いたい。その作品でお金が発生しなくても、僕が責任持って、気に入って世に出しているものだからお金のことは二の次だと思ってる。お金に左右されるなら、別の仕事した方がいいと思う。
でも現実問題、お金がないと生きていけないっていう部分も少なからずある。その微妙なところをうまくやっていければ、と思ってる。そこで僕が思うに、日本だけに向けて発信すると聴く人も少ないけど、世界中の人をターゲットにして発信していけば単純にリスナーも多くなって良いかなと。そうやってうまくやっていっているレーベルも世界中にたくさんあるし。うちのレーベルは、新聞を発行していて、世界中に向けて発信したいっていう意味で、バイリンガルで書いてるよ。
あの新聞おもしろい(笑)。かわいいし家に飾ってますよ。
…でも、日本では好きなことを仕事にしている人が少ないですよね。だから、好きなことで稼ぐのはやっぱり難しいと思ってしまいます。
僕が思うに、「生活する」っていうのが物凄く大変なことなんやと思う。この日本では、生活するのにお金がかかり過ぎる。だからみんな、お金を稼ぐために好きでもない仕事を我慢してやってるし。僕が知り合った海外の人たちは、物凄く楽しく生活してた。音楽をする、生活をするっていうことは日本で難しいかもしれないけどできると思う。低所得でも、僕はうつくしく生きたい!(笑)。僕の生きられる範囲で、きれいな生き方をしていきたいな(笑)。
私、自分がやりたいこととか迷ってたりするから、人から「へタレ」って言われたんですけど(笑)、tricotさんは迷いがないしヘタレじゃないですよね。
(笑)、そんなん僕だって昔いろいろ経験したし。今は自信持って自分のやりたいことしてるけど、昔は人から見たらヘタレやったかもしれないね。…今でもやっぱり心配もあるし、ダメな部分もある。でもそれは、僕が生きていく中で克服していきたい。…僕みたいな生き方を、「ゆっくり」生きてるって言う人いるけど、それは誰かが決めた価値観やから。僕は自分の時間の流れで生きていくしかないし。すごくわがままにやってます(笑)。
(笑)、失敗したっておっしゃいましたが、昔は自信なかったですか。
20代になった頃はレーベルやろうって動き出したけど、10代の頃は物凄くいろいろなことについて考えた。音楽をやりたいって思ってたけど、どうすればいいかわからなかったし。迷っていた時に、Elliott SmithやMary Lou Lord、Joni MitchellとかNeil Youngとかのフォークに出会って。それでどういう音楽活動をしたいのか、その方向性が定まった。
Elliott SmithやMary Lou Lordを実際に観たことありますか。
Mary Lou Lordって全然日本でライブしてなくてさ。アメリカに行った時に観に行って。正直、ライブ観て泣けた。日本にいる時に何回も何回も聴いて、歌詞も空で歌えるくらいに思い入れあって。そんな人を目の前にした時、しかも誰も知り合いのいない異国の地のライブハウスでさ、…自分の小ささを感じて。自分がその場にいない感覚も。そんな中で、Maryが物凄くやさしい歌を歌って…。その時に「ほんとに音楽っていいな」って感じた(笑)。
そして思ったのは、僕もそういう音楽をしたいってこと。「そういう音楽」っていうのは、人に対して感動を与えられるような音楽。僕はMaryの音楽を聴いて、その時は生き方が決まったし。これからいろいろなことを経験して変わっていくかもしれないけど、歌詞とか彼らの活動から受けた影響は大きい。Mary Lou LordやElliott Smithも、Joni MitchellとかNeil Youngとか昔の音楽から影響を受けてギターを持って演奏するようになったのね。そして、Maryも若い人たちに彼らの音楽を伝えたいと思って、カバーした曲を発表してる。僕も音楽活動やレーベルをしていく上で、昔の音楽を伝えたいっていうのもあるし、知られてない音楽も伝えたいって思う。
「音楽っていいな」って思う瞬間って、すごくうれしくなりますよね。その曲はすごく思い出に残るし。
うんうん。その時その時で聴きたい音楽って変わるけど、例えば“あの頃は、この音楽をずっと聴いていたな”っていうような、人生のある一時でいいから、人の人生に影響を与える音楽を出していければいいなと思う。あと、僕らの活動を見て、僕らより若い世代がギター持ったりとか、インディペンデンスな方法でも芸術活動し始めたりとか…、何かの行動に、自分たちの音楽が還元してもらえたらいいと思う。