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おのぞみドットコム教授の扉>同志社大学 西村 卓先生(1)
西村 卓先生
同志社大学の西村先生は、京都をとりあげ、地域経済とそれを支える人々について研究しておられます。ゼミでは国家史を机上で研究するというスタイルはとらず、「自分の足と目と耳でかせげ」をモットーに、とにかくキャンパスを出て町や村に行き、その土地の風土に触れ、その土地の人に合い、その人たちに話を聞く。それを基礎に関連資料とすり合わせながらイメージを作り上げ、歴史を叙述して行く。そんな研究スタイルをとっています。

今回は、そうした研究へ向かった契機、そして今行っている研究についてお話をうかがいました。




Q、西村先生は、どのようなことを研究されているのですか?

 僕自身の専門は「日本経済史」といって、日本経済の歴史を研究していくものです。時代的には、江戸から明治、大正にかけての時代を対象とし、農業史を扱っています。西洋から様々な農業技術が入ってくる中で、日本在来の農業がどういった変容をとげるのか、あるいはとげないのかについて、人物を通して見てきました。日本在来の農業の在り方というと、中国哲学である陰陽五行説(おんみょうごぎょうせつ)が、俗説化して庶民の間に土着していたと言われます。そこへ明治になって入ってきた西洋の農業の考え方は、こうした土着の農耕信仰と技術を「陋習(ろうしゅう)だ」として排除しようとしたのです。そういうぶつかり合いの中で、日本の近代がそして農業がどのような方向へ行こうとしたのかを見定めようとするのが私の研究です。


農業が私の専門でしたが、農業の問題を取り扱っていくうちに、お百姓さんと話していても最後のメンタリティの部分が分からなくなったんです。在来のやり方に新しい農法を接合するときの心のあり方、その部分がどうしても分からなかったのです。それは私が元々、町の子だったからかもしれません。だから、私のアイデンティティを形成している「町」というものを、「村」と比較しながら捉えていきたいと思うようになったのです。「町」にいる者の視点から「村」を見て、また「村」を知っている者の視点から今度は「町」を見るというふうに、比較しながら捉えていきたいと思ったのです。

これが研究として私が「京都」に入ったきっかけです。


Q、実際に「町」と「村」を比較する中で、どのような違いがありましたか?

 京都は、「町(ちょう)」という自治組織によって成り立っています。通りを挟んで向かい合った家が同じ「町」になります。これを両側町(りょうがわちょう)と言います。江戸時代には、盗賊や他の人間が入って来ないように柵を建てるなど、「町」が防衛の役割を担っていたとも言えます。また「町」の象徴的なものとして、お地蔵さんがあります。各「町」でお地蔵さんを守るために、交代で掃除をしたり、お供え物の当番をしたりしています。今でも地蔵盆が「町」の年中行事の中で、大きな柱となっていることはご存じでしょう?

京都の「町」は自治的な側面、つまり助け合うという側面と、ヨソ者を阻止するという2つの側面をこの「町」が持っています。だから、勝手に家を売ったり、勝手にヨソの人を入れたりすることに対して規制がかかるのです。いわば、「相互扶助」の面と「規制」の面の2つの機能をこの「町」が持っているのです。

これと同じことが村でも言えます。とくに近畿の村を見てみると、狭い村社会の中で生計が成り立たなくなった家族に対しては、村全体から援助をします。また、土地を売る時には、村の中の者どうしでやりとりすることに関してはそこまで厳しくありませんが、村の外の人間に土地を売ることに関しては規制が入ります。だから結局、「お互いが助け合っていこう」ということと、「他の者を排除し、勝手なことをする人に対しては規制がかかる」ということが、「町」の機能と同じだと思います。

しかし、町と村とで違うところは、村はモノを生産するところ、町はモノを消費するところです。これが決定的な違いなんです。本来、モノを作るところが偉くて、それを消費するところは、ありがたく感謝しなくてはいけない立場のはずです。しかし日本の歴史は悲劇的にも、都市がえらそうにしていて、農村を見下げるような風潮があるのです。ですが、近代の都市形成を見ていると、高度経済成長期まではまだ、村と町とで人の交流がありました。それから京都の町では、人糞尿が肥料として村へ運ばれていたという歴史もあります。そうして出来た農作物を都市に持ってきて、都市の人間が消費するという循環があったのです。

それが近年、そうした循環がぶちっと断ち切られてきたのです。この循環をいかに回復するべきか、そのためにどうすればいいか。そう考え始めたのが、私が研究として都市に入った理由でもあります。


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【プロフィール】
西村 卓
(にしむら・たかし)
同志社大学経済学部長・同志社大学大学院経済学研究科長・教授


著書に、『「老農時代」の技術と思想』(ミネルヴァ書房,1997年)、『京の庶民史―伝統と技に学ぶフィールドワークー』(かもがわ出版,1999年)がある。
 


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