同志社大学の渡辺武達先生は、メディア・ジャーナリズムの倫理について研究されています。私たちの暮らす社会は氾濫する情報から多くの影響を受けていますが、メディアが抱える多くの問題点はあまり知られていません。正しい判断を可能にするためメディアに問われる倫理観と、私たちに求められている賢い視聴者になるためのメディア・リテラシーとはどのようなものなのでしょうか。教員として、学生にどう接していられるのかを併せ、先生に伺ってきました。
Q、渡辺先生は現在、どのようなことを研究されているのですか。
広い意味ではメディア・ジャーナリズム論になりますが、専門的に研究しているのは「メディアの倫理」です。
現代社会ではメディアの影響が非常に大きく、メディアが人びとの頭のなかにある「社会観」「社会像」を作っているという面があります。また、アクセス時間や情報源を調査すると、若者の間ではテレビの影響は大きなものです。
これは大きな問題を抱えているのです。例えばほとんどの学生が使いこなしているパソコンや携帯電話にしても、単に便利な道具というだけではない。マナーをしらない使い方や、技術を悪用した事件など間違った使い方はいっぱいありますね。マニュアルとして形式的な説明はあっても、「どう使いこなせば良いのか」という倫理が追いついていない。今のメディアにもこれと同じことが言えるんです。大きな影響力を持っていて、人々の関心も高いのに、メディアに対する基本的知識が一般に高くないのは問題です。
お互いに暮らしやすい社会を維持するためには、まず情報を正しく理解し判断する「メディア・リテラシー」を、情報の受け手である視聴者が身に付けていかなくてはね。だからジャーナリズムやメディアの倫理を研究し、情報を受け取る人たちが正しい判断ができるようなメディアが作られるよう、理論と道筋をきちんと提示することが、われわれメディア学者の使命ではないかと思っています。
Q、求められる「メディア・リテラシー」とは具体的にどのような能力なのでしょうか?
メディア・リテラシーとは何か。簡単に言うと、メディアの提供する「情報を読み解く」能力、そして「メディアを使いこなす」能力ですね。そのためにはまず、メディアの社会的構造とその位置付けを正確に知っておかなければなりません。
識字率のことをリテラシーともいいますが、メディア・リテラシーは表面的な情報の読み解き方だけではなく、メディアの構造・特徴・情報送出の仕組みから、その社会的機能や責任、その内包する諸問題までを人々がどれほど知っているかをも含んだものとして考えなければならないんですよ。
特に今、視聴者が認識しなければならない大きな問題として、情報操作の問題があります。視聴者は常に「誰が情報を操作しているのか」という観点を持ってその構造を解き明かす姿勢が大切ですね。
近年で言えば、同時多発テロ事件とアメリカによる報復戦争の正当化についてがそう。NHKがワシントン支局からの報道で正しく情報を伝えているかどうかなど、ただテレビを見ているだけではわからないし、一般紙も似たりよったりでまともな歴史の検証に耐えることはほとんど書いてない。それを教えないと経済でも政治面でも大変なことになるのにね。
「メディアは社会でどういう役割を果たしているのか。」情報の受け取り手がそのことを認識し、さらに情報を使いこなす力を持つことも重要。これがメディア・リテラシーですね。これはテレビとかラジオ、新聞の情報を読み解き、それがどのような意味を伝えているのかを正確に理解すること以前に基本的なことなのですが、ビデオカメラやデジタルカメラ、パソコンなどを自分たちで使いこなして、どこまで情報を発信していけるのかという能力もメディア・リテラシーの重要な側面の一つになります。
始めにも言ったように、これはマニュアル的な意味だけではないですよ。社会的公益性から考えて正しく使えるか、という倫理を持ってそういう能力をうまくつけていかないと、少なくとも現代社会の最先端で有効な仕事はできない。仮にメディア関連の仕事をしようと思ったら正しくパソコンが使えない人、携帯を使えない人・・・もう仕事できないですよ。情報を扱う上でそういう能力を最低持っているということも、メディア・リテラシーの条件になりますね。
学生の場合なら、メディアを通して自分はいったい何を表現できるのか、それからメディアの仕組みはどうなっているんだ、ということを、社会に巣立っていく前に、はっきりとつかんでおいてほしい。そういう目標と自覚をもって、努力し続けて欲しいと思っています。
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【プロフィール】
渡辺武達
(わたなべ・たけさと)
同志社大学文学部社会学科・教授
1944年愛知県中島郡生まれ。同志社大学英文学科卒業、同大学院修士課程新聞学専攻修了。京都産業大学教授をへて、1990年より同志社大学教授。他に現在、イギリス・シェフィールド大学大学院通信教育学部非常勤講師、2001年度アメリカ・ハーバード大学客員研究員。専攻はジャーナリズムの倫理、国際コミュニケーション論。
著書に『メディアと情報は誰のものか』(潮出版社)『メデイア・リテラシー、情報を正しく読み解くための知恵』(ダイヤモンド社)。テレビ番組やCMの企画・制作にも関係し、幅広い研究・社会活動を行っている。
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