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おのぞみドットコム究極の絶景>第7回 千本釈迦堂の桜
千本釈迦堂の桜 千本釈迦堂の桜


千本釈迦堂の境内に咲く大きな枝垂れ桜。あの「おかめさん」にちなんで、「阿亀桜」と呼ばれています。確かに華やかですが、風になびく様子は少し寂しげでもあります。他の桜のように陽気に感動を与えるのではなく、切なく心にささやきかけるような情緒があります。それは、千本釈迦堂に伝わる伝説と関係あるのかもしれません。

千本釈迦堂は、鎌倉時代に義空上人が釈迦念仏の道場として釈迦如来像、十大弟子像を安置したのが始まりと言われています。本堂を建立するにあたり、呼ばれたのが当代きっての名工とうたわれた長井飛騨守高次という大工でした。しかし、その高次とんでもない失敗をしてしまうのです。4本しかない大切な親柱の1本を短く切ってしまったのです。途方に暮れる長井飛騨守高次に、その妻の阿亀が「他の3本も同じ大きさに切って、揃えてしまっては?」と助言をします。そのアドバイスがよかったのか、本堂は人々の賞賛を得て、現在にもその姿を残しています。

しかし、話はこれだけでは終りません。「妻の知恵で、この堂が完成したと知られれば恥となる」と思い悩む高次。それを察し、「何かの拍子で私も人に漏らすかもしれない。そうなれば主人のためにならない」と思った阿亀は自殺してしまったのです。今の時代では考えられない話です。

夫の高次も、自分のつまらない見栄が妻を自殺に追いやったことを悔い、弟子達に全てを打ち明けます。阿亀の死を悲しむ弟子によって全国の大工達に話が伝わり、江戸時代には境内に「おかめ供養塔」が建てられました。現在でも棟上の際には「おかめさん」の面を飾って、工事の無事を祈る風習が全国各地に残っているほどです。

私達が歳を重ねていく中で、悲しい別れは必ず経験します。大好きだった祖父母の死だったり、自分の分身のように可愛がっていたペットの死だったり、恋人との一方的な別れだったり。

別れを乗り越えるのは大変なことです。その人との楽しかった思い出が頭をよぎるたびに胸が締めつけられるような痛みが襲います。「最初から、そんな人など存在しなかった方がよかったのに」。その人との出会いが大切であればあるほど、そんなことさえも考えてしまいます。

花にはそんな別離の痛みを和らげる、不思議な力があるように思います。仏壇の横にそっと花を置くだけでほんの少しですが心の痛みが癒されたり、お墓参りで花を生けるだけで故人との思い出が胸をよぎったり。別れの痛みを一時忘れさせつつも、その人との思い出を胸に刻ませてくれます。そうすることで、一緒に過ごした思い出が、悲しみから感謝へと変わるのです。そんな不思議な力があるからこそ、何千年という間、人は花を愛で続けたのだと思います。

千本釈迦堂の阿亀桜もそのいわれは定かではありませんが、阿亀をしのんでつけられた名前であることは間違いありません。そこには阿亀のエピソードに心を痛めながらも、そのことを心に刻みつけたいという気持ちが感じられます。

春は、出会いと別れの季節。千本釈迦堂の境内に阿亀の桜は、今年もしっとりと花を咲かせます。


●千本釈迦堂(大報恩寺)
京都市上京区七本松通今出川上ル
075-461-5973
市バス上七軒バス停下車徒歩5分
営業(拝観時間) 9:00〜17:00




 
 

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